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2016.05.13

【FDA発表!「データの完全性」ガイダンスドラフト】ASTROM通信<98号>

 ~安全な医薬品の安定供給をご支援する~

こんにちは
ASTROM通信担当の橋本奈央子です。

ゴールデンウィークも終わり、だんだん暑くなってきましたが、いかがお過ごしですか?

さて今回は、2016年4月14日にFDAより、
Data Integrity and Compliance With CGMP Guidance for Industry(データの完全性
及びCGMP準拠 業界向けガイダンス)のドラフトについて取り上げたいと思います。

データの完全性といえば昨今頻繁にウォーニングレターに指摘事項として登場しますが、この
ガイダンスドラフトには、Q&Aという形で、データの完全性についてのFDAの見解がまとめられ
ていて、FDAが指摘するデータの完全性について理解する参考にしていただけるかと思います。
少し長いのですが、最後までお付き合いいただければ幸いです。

<原文>
http://www.fda.gov/downloads/Drugs/GuidanceComplianceRegulatoryInformation/Guidances/UCM495891.pdf


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ガイダンスの序論及び背景の抜粋
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このドラフトに関するコメントや提言は、連邦公報での発表から60日以内に提出する必要が
あります。

I.序論
このガイダンスの目的は、21 CFR Part210,211,212(米国連邦規則21条第210章、211章、212章)
で求める薬のCGMPにおけるデータの完全性の役割を明確にすることにある。
FDAは、データが信頼できて正確であることを期待する。CGMPの規則及びガイダンスは、データの
完全性に関する問題を防ぎ、問題を見つけるために、柔軟なリスクベースの戦略を認めている。
FDAのガイダンス文書は法的強制力のある責任を定めない代わりに、当局の現在の考え方を述べた
勧告とみなされるべきである。

II.背景
ここ数年FDAは、CGMP査察の中でデータの完全性を含むCGMP違反を年々見つけている。
データの完全性を保証することは、医薬品の安全性、効能、品質を保証する業界の重要な責任で
あり、公衆衛生を守るためのFDAの重要な機能でもあるため、これは気がかりな状況である。
これらのデータの完全性に関係するCGMP違反は、ウォーニングレター、輸入警告、同意判決と
いった多数の規制措置につながっている。


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ガイダンス本文(18個のQ&A)の抜粋
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1.CGMPの記録に関する下記の用語について明確にしてください。
a.Data integrity(データの完全性)とは何ですか?
 データの完全性は、データの完結性、一貫性、正確性をさす。
 完結し、一貫し、正確なデータは、出処がわかり、読みやすく、同時に記録され、正確でなけ
 ればならない。(ALCOA)
 ALCOA:Attributable(帰属性)、Legible(判読性)、Contemporaneous(同時性)、
     Original(原本性)、Accurate(正確性)

b.メタデータとは何ですか?
 メタデータとは、データを理解するために必要な、前後関係を示す情報である。データ値は、
 データについての追加の情報がなければそれ自身は無意味である。メタデータはしばしば
 データについてのデータと評される。メタデータは、データを類型化したり、説明したり、
 検索したり、使用したり、管理したりするための構造化された情報である。
 例えば、数値の”23”は、単位の”mg”というメタデータがなければ意味がない。
 ある種のデータに関するメタデータには、いつデータが取得されたかを示す、日付/時間の
 タイムスタンプ、誰が、データを生成するテストまたは分析を実施したかを示すユーザID
 データの収集に用いられた機器のID、監査証跡等を含む。
 データは、CGMP活動の再現に必要な関連するメタデータと共に記録の保持期間を通して保持
 されなければならない。データとメタデータの関連性は、安全で追跡可能な方法で維持され
 なければならない。

c.監査証跡とは何ですか?
 監査証跡とは、電子記録の生成、修正、削除に関する経過の再現を可能にする、安全な、コン
 ピュータで生成された、タイムスタンプのついた電子記録を意味する。監査証跡は、記録の
 “誰が、何を、いつ、なぜ”の年代記である。例えば、HPLC(高速液体クロマトグラフィー)
 の監査証跡は、ユーザ名、実行の日時、演算パラメータ、再処理の詳細を含む。

d.FDAは、記録形式に関する“静的”と“動的”という用語をどのように使っているのですか?
 紙の記録または、電子画像のような不変のデータの文書を示すのに“静的”という用語が使わ
 れる。また、“動的”とは、ユーザと記録コンテンツの間で相互作用があるものをさす。
 たとえば、動的なクロマトグラフィーの記録は、ユーザがベースラインを変えてクロマトグラ
 フィーデータの再処理ができるため、結果のピークは、より小さくも大きくもなる。また、
 計算式やテスト結果を計算するためのスプレッドシートの入力値等をユーザが変えることが
 できる。

e.FDAは、211章68(b)の“バックアップ”という用語をどのように使っているのですか?
 FDAは、211章68(b)にて、バックアップを、記録の保持期間を通して安全に保持されている
 オリジナルデータの真正なコピーと呼んでいる。バックアップファイルは、メタデータに関連
 するデータを含み、オリジナルのフォーマット、もしくは、オリジナルフォーマットと互換性
 がなければならない。
 これは、通常のコンピュータの使用中に生成され、障害回復のために一時的に保管されている
 バックアップコピーと混同すべきでない。そのような一時的バックアップコピーは、データの
 バックアップファイルを保持せよという211章68(b)の要件を満たさない。

f.211章68の“システム”と“コンピュータまたは関連システム”とは何ですか?
 米国規格協会(ANSI)は、システムを、人 と 機械 と 特定の機能を遂行するために
 まとめられた方法 と定義している。コンピュータまたは関連システムとは、ハードウエア、
 ソフトウエア、周辺機器、ネットワーク、クラウドインフラ、オペレータ、関連する文書
 (ユーザマニュアルや標準操作手順書)ということができる。

2.いつ、意思決定からCGMPデータを除外することが許されるのですか?
 CGMP記録の一部として生成されたいかなるデータも、出荷基準の一部として品質部門により
 評価され、保持されなければならない。CGMP要件を満たすために生成された電子データは、
 関連するメタデータを含まなければならない。出荷基準の意思決定プロセスからデータを除外
 するために、正当で文書化され、除外のための科学的正当性がなければならない。

3.コンピュータシステムのワークフローはバリデートされている必要がありますか?
 はい、ワークフローが用途通りのコンピュータシステムであることが、バリデーションを通じて
 チェックされなければならない。

4.CGMPコンピュータシステムへのアクセスはどのように制限されるべきですか?
 FDAは、可能であれば、仕様、工程パラメータ、製造またはテスト方法を変更するための能力
 を制限することを推奨している。FDAは、システム管理者の役割は、記録内容の責任から独立
 した人に任命されることを提案している。アクセスのコントロールを助けるために、FDAは、
 使用中のCGMPの各コンピュータシステムに関し、権限を与えられた個人と彼らのアクセス権限
 のリストを保持することを推奨している。
 もし、これらの独立したセキュリティの役割の割り当てが、少数の従業員の小さな操作や設備
 にとって実用的でない場合、FDAは変わりの管理方法の実施を推奨している。例えば、もし、
 システム管理者の役割と記録内容の責任者が同一人物の場合、FDAは、レビュを行う第二の人
 を提案している。もし第二の人のレビュが可能でなければ、当局は、自身の業務の再チェック
 を推奨している。

5.FDAはなぜコンピュータシステムの共有ログインアカウントの使用を心配するのですか?
 ログイン資格が共有されると、ログイン時に、一人の個人を特定できない。

6.未記入用紙(ブランクフォーム)はどのように管理されるべきですか?
 FDAは、もし未記入用紙が使われるなら、品質部門または別の文書管理方法により管理される
 ことを推奨している。
 例えば、番号のふられた未記入用紙が適切に発行され、全ての発行用紙の使用が終わったら
 照合されるべきである。未完成または記入を誤った用紙は、それらの永久的な記録の一部と
 して保管されなければならない。

7.監査証跡はどれくらいの頻度でレビュされるべきですか?
 FDAは重要なデータに対する変更を保存する監査証跡は、記録毎に、記録が最終承認される
 前にレビュすることを推奨している。監査証跡の定期的レビュも行われるべきだが、それに
 限定されない。
 FDAはシステムの複雑さと使用目的に基づいて、監査証跡のレビュがスケジュールされること
 を推奨している。

8.誰が監査証跡をレビュするのですか?
 監査証跡は、記録の一部とみなされる。CGMPのもと、記録のレビュの責任を負う職員が、記録
 に関連する重要なデータの変更を保存する監査証跡をレビュすべきである。

9.電子的コピーは正確な紙または電子記録の複製物として使うことができるのですか?
 はい。コピーが、関連するメタデータを含み、もともとの記録の静的または動的性質を保ち、
 オリジナルデータの内容や意味を保っているのであれば、電子的コピーは、紙または電子記録
 の真のコピーとして使用することができる。

10.フーリエ変換赤外分光光度計のようなスタンドアロンのコンピュータ化されたラボの機器
から得られたオリジナルの電子記録のかわりに、紙の印刷物や静的記録を保持することが許され
ますか?
 紙の印刷物や静的記録がオリジナルの記録の完全なコピーであれば、保持の要件を満たすで
 あろう。しかし、ある種のラボの機器から得られる電子記録は動的であり、印刷物または静的
 記録は動的形式を保持しないので、CGMPの要件を満たさない。

11.生産管理に関し、手書きのサインのかわりに電子署名を用いることができますか。
 はい。適切な管理のされた電子署名は、手書きサインまたはCGMPの記録におけるイニシャルの
 代わりに使用することができる。
 電子記録を使用する企業は、記録に電子的にサインした特定の人物を割り出せることを保証する
 ための管理について文書化しなければならない。

12.電子データはいつCGMP記録になるのですか?
 データがCGMP要件を満たすように生成された時、全てのデータはCGMP記録となる。記録を生成
 する作業が実施されたと同時に、CGMP要件に従って、データは文書化もしくは保存されなければ
 ならない。

13.なぜFDAは、ウォーニングレターの中で、「システム適合性試験」または、テスト/準備/平衡
ランにおいて、実際のサンプルの使用を問題としてあげるのですか?
 FDAは特定の結果を得ることを目的とする、または、受け入れられない結果を打ち消すための
 サンプリングやテストを禁止する。(例:望ましい合格結果が得られるまで異なるサンプルで
 テストすること)
 適合のためのテスト(testing into compliance)は、CGMPと矛盾する。
 我々は、実際のサンプルをテスト/準備/平衡ランで使用することを、適合のためテストを隠蔽
 する手段として、違反行為とみなすかもしれない。
  もし実際のサンプルをシステム適合性試験に使用するのであれば、適切な基準、文書化された
  手順が作られ、その手順に従うべきである。

14.再加工されたラボのクロマトグラフィーから得られた最終結果のみを保存するのは認められ
ますか?
 いいえ。クロマトグラフィーが再加工されたら、文書化された手順が作られ、それに従って
 テストされ、得られた結果はレビュのために保持されなければならない。
 FDAは、ローデータ、グラフ、チャート、機器から得られたスペクトルを含む完全なデータを
 必要とする。

15.データの改竄の可能性等、品質問題に関わる内部情報は、文書化されたCGMPの品質システム外
で非公式に取り扱うことができますか?
 いいえ。偽造が疑われるもの、または、既知の偽造、または、記録の改変は、患者の安全、製品
 品質、データの信頼性への影響を判断し、根本原因を見つけ出し、必要な是正処置がとられた
 ことを保証するために、CGMP品質システムのもとで完全に調査されなければならない。

16. CGMPの定期的訓練プログラムの一部として、職員は、データの完全性の問題の発見のための
訓練をされるべきですか?
 はい。データの完全性の問題を発見するための職員教育は、職員は与えられた職務を遂行する
 ために教育、訓練、経験、またはその組み合わせを受けなければならないという要件に一致し
 いる。

17.FDAの査察官は、電子記録を見ることが許されますか?
 はい。CGMPで求められる全ての記録は、FDAの査察対象であり、企業は、強制査察、レビュ、
 電子データを含む記録のコピーを許可しなければならない。

18.査察中にみつかったデータの完全性に関する問題について、FDAは、ウォーニングレターや、
その他の規制措置の中で、どのように対処するのですか?
 FDAは、第三者の監査役の採用、問題の範囲の特定、是正処置プランの実施、問題に責任を負う
 全てのレベルの個人をCGMPポジションから解任することにより、問題を効果的に改善すること
 を奨励する。FDAは、データの完全性を含むCGMP違反が改善されているかを裁定するために査察
 を実施するだろう。


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まとめ
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いかがでしたでしょうか。Q&A方式で、電子記録やメタデータに関する基本的な説明まであって
わかりやすかったのではないでしょうか。しかも、このガイドラインのドラフトは、FDAの最近の
見解がのっているので、FDA査察を受ける可能性のある企業様は、一度本文を確認されることを
お勧めします。

最後までお読み頂き、ありがとうございました。

☆次回は、6/1(水)に配信させていただきます。


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