ASTROM通信バックナンバー

月別アーカイブ

2015.03.13

【薬価や薬のライフサイクルマネジメントについて】ASTROM通信<70号>

 ~安全な医薬品の安定供給をご支援する~

こんにちは
ASTROM通信担当の橋本奈央子です。

桜の開花が待ち遠しいこの頃ですが、いかがお過ごしでいらっしゃいますか。

さて、前回、後発医薬品の数量シェアが先発医薬品を超えたというテーマを取り上げたところ、
先発医薬品メーカの読者の方から、“そろそろ医薬品のライフサイクルマネジメントを考えた
ほうがよいかもしれない”というコメントをいただきました。

そんな時に、日経ビジネス2015年3月9日号で、「米製薬業界、1錠13万円の衝撃」という面白い
記事をみつけました。
アメリカは、日本のように政府が薬価交渉権を持たないため、新薬の研究開発費を回収するため
に、高額の薬価設定がされることもあるようです。
http://business.nikkeibp.co.jp/article/NBD/20150304/278234/?ST=pc

そこで今回は、薬価や、薬のライフサイクルマネジメントについて取り上げたいと思います
最後までお付き合いいただければ幸いです。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
日本の薬価について
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
日本の薬価は政府により決定されます。

医療機関が卸から薬を購入する際の価格(市場実勢価格)と、医療機関が患者に請求する薬の
価格(薬価)の差(薬価差益)は、医療機関の収入源になっています。医療機関が差益の多い
薬剤ばかりを処方するようになれば患者に対する医療の充実という点で影響が及ぶ可能性が
あります。
そこで薬価差益をなくすため、政府は、市場実勢価格と薬価の差を調査し、薬価を市場実勢
価格に近付けていくのが、改定の目的の1つです。
しかし、それ以外にも、薬価改定には、医療保険財政の改善や、患者負担の改善といった目的
もあります。

薬価改定の際は、無条件に市場実勢価格に合わせるのではなく、後発医薬品が存在するか/新
医薬品か、新医薬品の場合、類似薬があれば、画期性・有用性・市場性・小児加算等の補正加算
をし、類似薬がなければ、原価計算方式を採用して決める方法がとられます。

薬価基準制度については、少し古いのですが、わかりやすい資料がありましたので、ご興味の
ある方はご覧ください。
出典:
 http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/2r985200000136yg-att/2r9852000001372p.pdf

日本のように、政府が薬価を決める国はあるのだろうかと思って調べてみたところ、カナダや
フランスは日本と同じように公定価格制度をとっていました。
また、アイルランド、オランダは政府が上限価格を決定し、イギリスは公示された許容利益率
の範囲内で製薬会社が自由に薬価を決定できる制度でした。
出典:Wikipedia「薬価」
 http://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%96%AC%E4%BE%A1

日本の政府が決める薬価は、新薬を開発した先発医薬品メーカが期待する価格になるケースは
少なく、加えて、後発医薬品が登場することにより、薬価も市場のシェアも下がるため、先発
医薬品メーカにとって、莫大な研究開発費を回収することが難しいのが現実です。

研究開発費が回収できなければ、新薬開発をやめてしまったり、新薬開発のための研究開発費
が削られることで開発力がそがれたりすることにつながりかねないため、薬価制度を見直そう
という動きもあります。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
アメリカの薬価について
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
日本の場合、国民皆保険制度のもと、全ての国民が何らかの保険に加入しなければいけません
が、アメリカの場合は、高齢者・障がい者を対象としたメディケア、低所得者を対象とした
メディケイド、米軍勤務者を対象とした公的保険制度がありますが、それ以外は、雇用主が
提携している保険会社に加入したり、個人が保険に加入したりすることになっています。

2003年、それまで保険の対象外だった外来処方薬代を政府の補助の対象とするメディケア改革
法案が成立したのですが、政府が製薬会社と薬価の交渉をしないという条項が存在している
ため、日本と違って、アメリカ政府が薬価に介入することが禁じられています。

製薬会社が自由に薬価を設定できて、需要があれば価格を引き上げることが可能なアメリカ
では、後発医薬品(ジェネリック医薬品)が登場するまでに、高い価格で薬を販売して、
投入した研究開発費を回収するというビジネスモデルが出来上がっています。
そのため、ギリアド・サイエンシズ社のC型肝炎治療薬「ハーボニ」のように1錠13万もする
薬が存在するのです。

先発医薬品メーカは、投入した研究開発費を回収するために、同一薬効成分に新たな効能・
適用・結晶型などを発見することで特許権を追加取得したり、製剤・剤型を見直して効能以外
の用法用量の付加価値を付けたりして特許を延長し、後発医薬品メーカへの対抗策を講じて
います。

たとえば、アルツハイマー病治療薬「ナメンダ」の場合、後発医薬品との競争を避けるため
に、早期に市場から撤退させ、新しく、1日2回でなく1回の投与で済む「ナメンダXR」を投入
しようとする動きがありました。
但し、これは、米ニューヨーク州のシュナイダーマン司法長官が製薬会社を提訴して、製薬
会社は差し止め命令を受けたそうです。

出典1:Wikipedia「後発医薬品」
 http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%BE%8C%E7%99%BA%E5%8C%BB%E8%96%AC%E5%93%81
出典2:日経ビジネス
 http://business.nikkeibp.co.jp/article/NBD/20150304/278234/?ST=pc
出典3:ウォール・ストリート・ジャーナル
 http://jp.wsj.com/articles/SB12785023003277603623104580159230040983878


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
医薬品のライフサイクルマネジメント
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
製品が販売開始されてから販売終了に至るまで、売上と利益に着目して、製品のマーケティング
を行う製品ライフサイクルマネジメント(マクロの製品ライフサイクル)の考え方があります。
これを医薬品に適用し、「製品の迅速な市場投入」「製品の価値の最大化」「製品の寿命延長」
を促す話を耳にすることがありますが、アメリカの製薬会社が行っていることは、まさにライフ
サイクルマネジメントに基づくマーケティング戦略といえるのではないでしょうか。

たとえば、94%以上の治癒率から“奇跡の薬”といわれるC型肝炎治療薬「ハーボニ」を、需要の
あるアメリカ国内で高額で売ることは価値の最大化といえますし、先発医薬品に特許を追加して
特許期間を延ばすことは、製品の寿命延長に該当します。

アメリカの製薬会社の1錠13万という価格設定に抵抗を感じる部分もありますが、新薬を創る
ために費やした研究開発費を回収することは、先発医薬品メーカが生き残るためには必要不可欠
なのではないでしょうか。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
まとめ
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
日本はアメリカと違って、先発医薬品メーカであっても、新薬の薬価を自由に設定することは
できませんが、ライフサイクルマネジメントの考え方は十分に意識していく必要があると強く
感じました。
ライフサイクルマネジメントの考え方を取り入れる際には、是非とも「製品の撤退の見極め」
も検討するべきではないかと思います。
後発品が大量に出てきた時点で、先発医薬品メーカは、後発医薬品メーカとの消耗戦を回避する
ことも重要ではないでしょうか。

最後までお読み頂き、ありがとうございました。
☆次回は、4/1(水)に配信させていただきます。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

★弊社サービスのご案内
http://e-mktg.jp/~pros/_dm/cc.php?ccd=3.584.430

★ブログ毎日更新中!
◆ PROS.社長の滋養強壮ブログ
http://e-mktg.jp/~pros/_dm/cc.php?ccd=1.584.430
◆ 営業ウーマンの営業報告ブログ
http://e-mktg.jp/~pros/_dm/cc.php?ccd=2.584.430
※URLクリック数の統計をとらせていただいております。

本メルマガは、名刺交換させていただいた方に、毎月1日、15日(土日祝日に重なった場合
は前日)に配信いたしております。

今後このような情報が必要ない方は、お手数ですが、こちらに配信停止依頼のメールを
お願いいたします。
hashimoto@e-pros.co.jp

【発行責任者】
株式会社プロス
ASTROM通信』担当 橋本奈央子
info@e-pros.co.jp